自己啓発は、現実逃避の一方法に過ぎない?

一方で、個人の成功そのものを否定したいわけではなくて、いわば

「もっと現実的な努力をしたほうがいいよ」

というような意味で、一部の自己啓発や成功哲学などの情報を否定する人もいます。

つまり、自己啓発セミナーとか、自己啓発本などに頼っている人というのは、結局は現実にそれを活かそうとするのではなくて、目の前の本当の現実から逃れるために、現実から目を逸らすためにそれらを利用しているに過ぎないという考え方です。

つまり、そういう考えを持つ人は、自己啓発というのは

「かんたんにできる現実逃避の方法」

のひとつであると見做して、いわば善意で警告するようなつもりで否定しているわけです。

たとえば、いわゆる「引き寄せの法則」といったものが典型的ではないでしょうか?

あるいは、自己啓発の分野ではしばしば潜在意識、あるいは宇宙の意志といったものが取り上げられます。

こういったものが現実の自分自身や、現実の世界を作り出しているのだ、というようなメッセージがしばしば自明の事実であるかのように語られることが確かにあります。

このような説を信じると、実際の仕事や日常生活などに対する現実感を失うのではないでしょうか?

周囲の環境や身近な人間関係に無関心になり、無気力にならないでしょうか?

人間がふつうに行うべき現実的な努力を無価値なものとみなして、常識的な社会生活から離脱しがちにならないでしょうか?

それが時には本人だけでなく、身近な人々をも苦しめることにならないでしょうか?

……このような懸念を持つのは、ある意味ではごく妥当というか、もっともなことなのです。

自己啓発なんかに熱を上げていると、それをやっている本人も不幸だし、まわりの人にも迷惑になるし、そういったものがどんどん喧伝されて流布されていくことは社会全体にとっても由々しき事態である、社会的損失である、ということですね?

実はこの種類の意見は、私も一理あると考えています。

本来、そもそも成功法則とか自己啓発というのは、そういうものではないはずなのですが……しかし、実際にそのような方向に人の心理や判断が動いてしまうという意味での危険性は確かにあるように感じます。

そして、たぶん、そういう前提で自己啓発的な方法論を実践しようとすれば、実際に成功できる人はかなり、かなり限られてしまうと感じます。

自己啓発は「奇跡」を起こすツールではない

一見、純粋に「非現実的な」ように見える情報やノウハウというのもあります。

ただし、本当に非現実的なことだけに頼って成功する確率は、当然きわめて低いでしょう。

言い方を変えれば、それはもう

「奇跡」

と言ってよいレベルのことを信じているようなものです。

だって、それは端的に言って、現実的には一切何もせずに、何らかの現象を起こすということでしょ?

もし、やっている本人はそう信じていたとしても、実際に何か具体的な成果や成功体験が得られた場合、それはたぶん、そのノウハウによって成功したのではなく、何か他の要因が考えられるのではないでしょうか?

そして、その直接の要因というのは、たぶん、もっと現実的な何かでしょう。

私の印象でも、たとえば提示される知識や、その表現が一見「非現実的」に見えるとしても、成功法則とか自己啓発の情報というのは、純粋に非現実的な手法のみで出来上がっているということはまずありません

むしろ、多くの場合それは同時に「具体的な実践」を要求します。

それらのノウハウを素直に解釈すると結局は、現実的な価値観や思考法や、行動様式や具体的な行為に活かされるようになっていて、人は結果的にはその現実的なものによって成功したり、自己実現したり、状況を改善したりするのです。

これは、言ってしまえば当たり前です。もともとそういうふうに促し、導くことが「啓発」なのです。

しかし、これはあくまで「本来は」という話です。

否定的な立場をとる人のこのような指摘は実は当たっていて……自己啓発や成功法則を学んだり実践したりしようとしている人の中には、実際の現実を変化させることではなく単に気持ちの上での現実逃避を叶える比較的気軽でかんたんな一方法として(多くの場合、本人はそれと気づかないまま)利用し続けてしまう人が存在するのです。