「ホスピタリティ」の具現化を妨げているもの

「ホスピタリティ(Hospitality)」の実現……。

最近しばしば取り上げられる課題ですが、なかなか思ったようにいかない場合が少なくありません。

言葉だけが独り歩きしている感もあります。

ホスピタリティとは、単純に和訳すれば

「思いやり」
「おもてなしの心」

ということになります。

接客業などでは当然に重要視されているはずの概念ですが……実際にそれが実現されている場面を見ることは稀です

おそらく、個人レベルでも、企業などの組織レベルでも根は同じです。

何がその実現を妨げているのでしょうか?

ホスピタリティを発揮できない9つの理由

実際に「ホスピタリティ」という理念を具現化するには、次の9つの壁を超えなければなりません。

① そもそもホスピタリティという概念を知らない

近年はサービス業や接客、販売といった業界を中心にホスピタリティの重要性はよく言われます。

しかし、それがたとえば働いている個人個人のレベルまで伝わっているかと考えると、まだまだ普及、啓蒙が行き渡っているとは言えません。

細かい概念の説明……というよりも、そもそも「ホスピタリティ」という言葉すら知らないで業務に従事している人がまだまだ多くいます。

② ホスピタリティの実例や具体的な方法を知らない

ホスピタリティというのは、もちろん細かい意味付けや定義を言い出すといろいろに表現できるとは思いますが、ごく自然に単純に言うならば、特に理解の難しい概念ではありませんよね?

「お客様におもてなしの心を持って接する」
「周囲の人たちと、互いに思いやりのある関係を築く」

……と言われて、その意味が分からないという人はおそらくいません。

しかし、では私という個人が現実に従事している仕事の範囲で、いったいどういう行為や態度をしたら……それがホスピタリティなのかという具体的な内容や、方法手順が分からないという場合があり得ます。

もちろん、直接的に言えばそれは「気持ちの問題」です

しかし、仮に気持ちはあっても、それを形として表すことができなかったり、できたとしてもごく典型的な、限られた状況でしか実行できない……ということでは、あまり効果がありません。

③ 必要性を感じていない

これは個人レベルでもそうですが、企業単位、あるいはユニット単位でもあり得ます。

そもそも仕事上、ホスピタリティの必要性を感じていなければ、それをあえてやろうとはしません。

また、仮に所属する特定の個人がホスピタリティを発揮しようとしても、その組織全体が必要性を感じていなければそれは大風の中でストーブを焚いているような、ほとんど効果のないものにしかなりません。

④ 当事者意識がない

一応の概念としては認識していても、

「それが自分自身に求められている」

という意識がないかもしれません。

「それは私の担当する仕事には含まれていない」
「私はこっちの業務で忙しいのだから、そういったことはヒマな他の人がやってくれ」

……たとえばこんなふうに考えていると、結果としてだれも自分事として捉えられなくなります。

またこれは末端の現場にいる人もそうですが、逆に直接現場に携わらない部門の人や、経営トップ層の人にも言えることです。

現場にはホスピタリティを要求しておきながら、当の経営者や責任者、指示担当者などが他人事のように考えているのでは、だれも自ら動こうとはしませんよね?

⑤ 不満や不安がある

働いている現場の雰囲気や、人間関係、あるいは経営方針とか待遇全般について不満を抱えていたり、不安を抱いている人は、自らすすんでホスピタリティを実現しようなどとは考えません。

むしろ、そういった不満や不安の矛先を、まるで当てつけのように周囲の人や、時には顧客に向けてぶつけてしまいます

⑥ 自分自身が仕事にホスピタリティを求めていない

意識的にしろ、無意識的にしろ、本人自身がそもそもホスピタリティなど求めていない……という場合があります。

特に、仕事においてはそんな

「理想的なこと」
「柔らかいこと」
「甘っちろいこと」

……など不要だ、とか思っていることがあります。

仕事観や価値観が凝り固まっている人に、単なる理念、概念としてのホスピタリティのあり方や、具体的な方法論などをいくら述べても、理解はすれどもぜんぜん実行しないはずです。

本音ではホスピタリティといった概念を仕事に持ち込むこと自体を否定しているのですから。

⑦ 割に合わないと感じている

意味としては理解できるし、その必要性や有効性も分かると。

……しかし、仮にそれを一生けんめい実現しようとしたところで、それによって自分自身は何が得られるのか?

それに費やす気力や労力と、見返りとして受けられるメリットが釣り合わない……と感じれば当然、

「だったらやらないほうが得だ」

という判断に傾くでしょう。

おそらく実際のところ、多くの人は知っているのです。

「自分の思いやりや、おもてなしの心が相手に通じない場合が多くある」

ということを。また、

「周囲の多くの人は、実際にはそんなことにはほとんど関心がないのだ」

ということをです。

企業などの単位で全社的にホスピタリティの重要性を掲げる場合も同様です。

仮にスローガンとして「ホスピタリティ」を唱えても、あるいは関連する研修や啓発活動に相当のコストをかけても、それに見合った効果が期待できなければ、おそらくそれは形骸化し、早晩うやむやに消滅することになります。

もちろんここで期待される効果というのは、単に短期的に利益が向上することだけを指しているのではありませんが、

「それが(短期、長期を問わず)自社にとってメリットがある」

というはっきりした根拠は必要です。

⑧ 自分が受けているホスピタリティに気が付いていない

裏返して考えると、ホスピタリティを「自分が与える」ことを惜しむタイプの人は、たいていの場合、自分がすでに受けてきたもの、また、今現在いただいている不特定の他人からの「思いやり」といったものの存在に気が付いていないかもしれません。

ホスピタリティというのは一方通行のままではダメと言われます

最終的には相手と相互に、またはある集団の範囲内で与えたり受けたりが同時に行われなければ成立しないのです。

しかし、自分がすでに与えられているものについてあらためて深く振り返る人は多くありません。

⑨ 実際にホスピタリティを感じたことがない

ある意味特殊な例かもしれませんが、生まれ持った境遇や家庭環境、あるいは成長過程での問題で、ホスピタリティにつながるような経験をほとんど持っていない人がいるかもしれません。

その人に対して、単に概念とか業務上の必要性とかをいくら説いても、もともと自分の中に持っていないものを表現することはできません。

……このように考えると、個人であれ組織であれ、実はホスピタリティというのはこれらをすべてクリアしないと実現されません。