「基本」とは何かをまともに考えてみる

何事も「基本が大切」だと言います。

「そんなの、基本中の基本」
「基本がなってない」

といった表現もよく聞きます。

でも、ふと考えると、そもそも「基本」ってなんなんだろう?

……と考えると意外にはっきり答えにくくないですか?

基本とは、辞書的には

「判断・行動・方法などのよりどころとなる大もと」

ということです。

「基本」の類義語としてはまず「基礎」という言葉がイメージされます。

「基礎」

ある物事を成り立たせる、大もとの部分。

……と辞書には書いてあります。一見してほぼ同じ意味とも取れます。また、実際同じ意味で使われる場合もよくありますよね?

一般的にも

「基本が大事」

という場合と

「基礎が大事」

という場合はほとんど同じ意味で言っているように感じられます。

「基本」と「基礎」とは違う?

しかし……よーく考えると何か違うような気もしますよね?

たとえば、教科書や参考書だと、一般的には最初に「基本問題」があって、それを踏まえて次に「応用問題」が出てくるのがふつうですよね?

「基本」という語に対応するのは「応用」です。

対して、今度はたとえばスポーツや競技の練習をする場合、たいてい最初に「基礎練習」をしてから、その後に「実戦練習」をするという流れがあります。

とすると、この場合「基礎」という語に対応するのは「実戦」です。

スポーツで基礎練習というと、だいたい筋力トレーニングとかランニング、走り込みといったものを想定しますよね?

でも、そういうトレーニングというのは、必要なものではありますが、その「競技そのもの」ではないです。基礎練習とは、今やろうとしているその競技そのものとは直接関係のない前段階としての練習というようにも思えます。

もちろん、筋力を向上したり、体力や持久力、瞬発力などを鍛えることが競技の技術や能力にも影響するのですが、でもそのトレーニングはその競技そのものではありません。

仮にこう考えてみると「基礎」という場合には何かしらの大きな「目的」とか、あるいは想定している「全体像」があって、それに必要な要素的なものを分解して取り出しているようなニュアンスがあるように見えます。

あるいは、土木や建築でいうところの「基礎工事」というのも、それは今建てようとしている建物そのものの工事ではなくて、その前段階となる土地や地盤を整備するものです。やはり、想定している目的とか、結果的な全体の完成のために必要な「要素」と見ることができます。

「基礎とは、あくまで要素を成立させるために必要な一部分」

という意味を含んでいるのです。

これと違って「基本」という場合には別のニュアンスを含んでいます。

上の例ですと、「基本問題」と「応用問題」とを比較してみると、たとえば算数、数学で言えば「基本問題」というのはまさに数や量、面積、体積といった概念に直結する「定理」「公式」そのものを純粋に抜き出して扱う問題のことを指します。公式そのものを覚えたり、純粋に「数」そのものの操作を練習したりするのです。

それを覚えた後に、今度はたとえばそれを現実に近い場面や、現実的な状況に当てはめて使えること、基本問題で理解した内容を使って考えたり、解決したりすることを学びます。それが「応用問題」の意味です。

この場合、考えてみると「応用問題」の中には「基本問題」が含まれていることになります。

言い方を変えると、むしろ応用問題が提示する現実の場面、状況の中に含まれる理論的な、概念的な「本質」はまさに「基本問題」のほうにあるのです。

このイメージを当てはめるとすれば、

「基本とは、多様に見える物事から抽出した本質であり、中心」

という意味が見て取れます。

「基本」という言葉を用いる時、たいていそれは全体の中の一部分という感じはありません。それはむしろ純粋にそれだけで完結している本質的な、中心的なものを表しているように思えます。

一方で「基礎」という場合には、それは「まだ不完全な何か」です。それは全体を形成するために前提的に必要な要素ではあるが、全体を代表するものではないものという感じです。

「基本」と「原則」は同じか?

「原則」

多くの場合に共通に適用される基本的なきまり。

……辞書的にはこうあります。

「基本」に対応する語が「応用」だとすれば、「原則」という言葉に対応するのは、当然「例外」という言葉でしょう。

もちろん、「基本」という語と「原則」という語も、実際はまったく同じ意味で使われることも多いものです。

しかしここではこれもあえて区別してみることにします。

上で考えたように、特定の何かしらのことで「基本」的なものがあるとして、それを踏まえて「応用する」という場合、その応用には、やはり「基本」となるものが含まれています。むしろ、応用とは、さまざまなバリエーションのある現象や問題に、基本を当てはめて対応するという意味であって、基本と相反することをするわけではありません

一方の「原則」という言葉は、多くの場合にそれが当てはまる、あるいは適用されるわけですが、「例外」の場合にはその原則が破られる、つまり原則通りではないものが適用されるという意味ですよね?

実際にしばしば使われる言い方では

「もちろん原則そうなんですけど……」
「原則、そういうことになっています」

というように、むしろ、原則という言葉は、それには「例外が存在する」ことを初めから想定しているというニュアンスがあります。

もちろん、確かにこれと同じ意味で

「もちろん基本そうなんですけど……」
基本的にそういうことになっています」

という言い方も最近しばしば聞きます。つまり日常私たちは基本も原則も同じ意味だと見做しているわけです。

が、上のように考えるなら、基本というのが、ある全体について常にそれを貫いている中心であり本質であるという意味であるのに対して、原則というのは常にそれが無視される場合があるということを意味に含んでいると区別することができるわけです。

……何事も「基本が大切」だと言います。

ところが、そこで言う「基本」というのはいったい何を指すのか……と考えると意外に難しいのです。