すべての仕事に共通する「基本」は存在するか?

「何事も基本が大事」

これはいろんな場面でよく聞きます。おそらく、否定する人はほとんどいないでしょう。

たいてい、新入社員の時などに、だれもが一度は必ず

「基本が大切」

と言われてきたことと思います。

ですから、何となく、仕事というものには共通の「基本」のようなものが存在するのだという認識を持つのは当然です。

私自身も、社会人になってから長い間、そのように考えていました。仮に、どんな業種、業態であろうと、あるいは営業にせよ事務にせよ関係なく「仕事というもの」すべてに共通する「基本」があるのだと。

しかし、あらためて考え直すと、ふと疑問が湧いてきました。みんな基本が大切、基本、基本というけど……

「本当にすべての仕事に共通する基本など存在するのか?」
「仕事の基本、という観念は本当に意味があるのか?」

何が「仕事の基本」と呼ばれているのか?

前の記事で考えたように、ここで言う「基本」とは、基礎とか、初歩というのとは区別して考えます。つまり「基本とは、多様に見える物事から抽出した本質であり、中心」であると定義します。

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この意味で「基本」というものを考えたとき、問題は

① そもそも共通の基本と言えるようなものは存在するか?

ということと、しかも、それが存在すると仮定した場合でも、

② それは本当に「大切」なのか?

……ということです。

そこで、一般に「仕事の基本」と言われるのはどんな内容なのかと考えると、まず、いわゆる新入社員の研修などで教わるような具体的なことがあります。たとえば

「敬語の使い方」
「名刺の渡しかた」
「電話の取り方」
「報告・連絡・相談」

……みたいなことです。これらは上で区別した通り本来は「初歩」あるいは「基礎」に近い事柄なのであって、それが「物事から抽出した本質、中心」というのとは違いますよね?

ではそれ以外に何が「基本」と呼ばれているのかというと、たとえば

「時間を守ること」
「納期を守ること」
「積極的に取り組むこと」
「スピードを重視すること」
「効率を重視すること」
「お客様や取引相手の気持ちを考えること」
「自己成長や、進歩、改善を目指すこと」
「周囲の人とのコミュニケーションを重視すること」

……たとえば、こんなようなことでしょう。

一般に、こういったものが「仕事の基本」と考えられているのです。

これは本当に「仕事の基本」なのか?

おそらく、多くの人がこういったものを「仕事の基本」だと思っています。あなたもそうだったかもしれませんし、私自身もずっとそう思ってきました。

また、市販のビジネス本などで「仕事の基本」と名の付く本を見ても、たいていこういったものの羅列であることが多いでしょう。

しかし、今になってこうして眺めてみたときに……なんとなく、おかしいって思いませんか?

……これ、基本なんですか? って。

しかも、これらはすべて、おおよそどんな種類の仕事にも共通する本質的な、中心的な事項なのですか?

なんだか、この言い方っておかしくないでしょうか?

何となくおかしい理由

私が、これらを基本と呼ぶのはなんだかおかしいと思っている理由を挙げてみます。

① 基本というには数が多すぎる

実は、いわゆる仕事の基本というのは、「基本」と呼んでいる割には、挙げれば切りがないほど数多く出てきます。試しに、仕事の基本について説いている本の目次を見てみてください。いったい全部でいくつあるんだ? ……という感じです。

② 人によってバラバラ

そして、その一つひとつを取り上げると、人によってどれを重視していてどれを軽視しているかもバラバラであることが分かります。なぜ、基本というのに重要性がバラバラなんでしょうか?

その詳細な解釈や、意見となるともっと千差万別といった状況になります。どうして基本なのに見解が人によってぜんぜん異なるのでしょうか?

個人単位でもそうですが、企業などの組織によっても、それぞれに力点の置き方や表現方法が異なります。歴史の長い企業などの場合は「我が社の伝統」と言われたり、いわゆる「社風」と言われるような暗黙の共通認識があることが多いですよね?

また、多くの企業にはスローガンや、社訓という形で明確に示されているものが存在しますが、それらはたいていはいわゆる「基本」の中のひとつを取り上げたものではありますが、なぜその点だけを特別視する必要があるのでしょうか? ……基本のはずなのに。

③ その多くは「心構え」や「考え方」を表現したもの

仕事の基本と呼ばれるようなものは、多くの場合その仕事そのものに直結した内容ではなくて、抽象的な「心構え」や「考え方のよりどころ」といったものです。大切と言えば大切ですが、でもそれって仕事の内容そのものじゃないんですよ?

④ 実際は、仕事の種類によって「本質」は違う

もちろん、ごく抽象的な言い方ならば「心構え」や「考え方」としては、どんな仕事にも共通するような言い方をすることはできるでしょう。

しかし、それはもはや、むしろあまりに抽象的な言い方であるがゆえに「すべての仕事に共通している」ように感じられるだけなのではないでしょうか?

それは「基本」なのでしょうか?

ちなみに、ひとつの考え方ではありますが、たとえば「お医者さん」という職業にとって、最も基本的な「考え方」というのを想像するとしたら、それはごく素直に考えれば

「人の命を助け、病気を治そうとすること」

なのではないでしょうか?

それは仕事の目的と言ってもいいし、至上命題と表現しても良いですが……もし、考え方や心構えとして最も本質的なもの、つまり「基本」というのを想定するならば、これこそ基本と呼べるものなのではないでしょうか?

……そして、もちろんこれは「お医者さん」だからそうなのであって、他の職業、たとえば「建築士」という職業ならまったく当てはまりませんよね?

すべての仕事に共通する、基本なんてそもそも想定できないんじゃないかと……私には思えてくるのです。

もちろん、たとえばこういう言い方はできます。お医者さんであっても建築士であっても、あるいは映画スターだろうがプロサッカー選手だろうが、

「積極的に取り組むこと」
「スピードを重視すること」
「お客様や取引相手の気持ちを考えること」
「自己成長や、進歩、改善を目指すこと」
「周囲の人とのコミュニケーションを重視すること」

は同じように重要だと。

このように言えないことはないです。

でも、それって基本?

つまり、それはそれらの各職業から抽出した本質であり、どの職業であるかに関わらず本質的な中心的な事柄なのでしょうか?

さらに言えば……この考えって、実際にその仕事をする上で意味ありますか?