組織に属することで、すり替えられるもの

私は、会社、企業……といった「組織」では、その調達力を支えるためのある種の

「すり替え」

が行われます。

それは、いわば属する人々に対する一種の心理操作、内部にいる人々が自ら内面的に論点のすり替えを起こすようなバイアスです。

それが、組織の調達のパワーの源泉です。

組織のパワー

ただし、それはだれかが意図的に人の心理を操作しようとしている……といったものではなくて、むしろ組織というものは須らくそのような性質をもともと持っているものだということです。

あるいは、これをいわゆる従業員、社員、被雇用者……というような、その組織に属している人々の視点から言えば、私たちは組織に属することでさまざまな恩恵を授かる代償として

「心理的なすり替えを受け入れる」

という精神的な犠牲を払わなければならない、ということを意味します。

私はこれを

「組織のすり替えメソッド」

と呼ぶことにしました。

そのメソッドは、内容的には次の3つに分けられます。

① 不安のすり替え
② 目的のすり替え
③ 対価のすり替え

です。

あらゆる組織というものは、これによってパワーバランスの上で他者より優位に立とうとします。それそのものが組織の存在理由なのです。

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組織の拘束力

会社などに特有の「社員を拘束する」という感覚。その正体はつまりこうです。

まず、個人が抱えている不利さや不安を解消することで個人を取り込み、所属意識を強めます。

そして組織の目的を刷り込み、組織の目的を優先するように誘導します。

同時に前提的に一定の対価を保証し、組織の目的を達成することに意識を集中させます。

……これが企業などの組織が持つ拘束力です。

ある側面から見ると、そもそも組織とはあらかじめこのような性質を持つ

「システム」

なのです。

そして実は組織というシステムが長期に維持されるためには、もう一つ大切な条件があります。

それは所属する各個人がこのような性質……つまり「組織のすり替えメソッド」にすぐに気が付かないことです

所属する個人のレベルで言えば、今言ったような全体の仕組みが明らかになるには、ある程度の時間と知識を必要とします。

もちろん、そこで行うべき仕事というものの全体像を把握するためにもある程度の経験を要します。

そして仮に業務の内容はすべて掌握したとしても、その倫理的な是非や自分にとってのメリット、デメリットなども含めた、システムの全体像を十分に納感できる程度に理解するまでには、さらに多くの経験や時間が必要になります。

自分ひとりですべてを行うような小規模なビジネスだったら、または自分がフリーランスだったら

「私の仕事は要するにこういうことである」

とはっきりと悟ることはそれほど難しくありません。

それが自分にとって良いのか悪いのか?

その成果が自分にどう影響するのか?

こういったことも比較的ストレートに理解できます。

しかし組織はそれを困難にするのです。というか……どちらかというとその理解に時間がかかったほうが組織にとっては有利なわけです

ですからもし、その組織に属しているある個人が、その人自身の持つ目的や価値観と、組織の方針やそこに所属し続ける意味との間に整合性が取れない……というようなことに気がついたとしても、組織はふつう、それを認めない方向に圧力を加えてその考えを阻止しようとします。

阻止しようとする……というか、初めからそういう機能があるといったほうがいいですが。

ただし、関係するさまざまな人たちの事情や思惑によって、ある場合には無意識に、また場合によってはかなり恣意的にこの圧力はより強化されることもあります。

断っておきますが、今ここでは否定的な見方だけを強調して表現しています。

もちろん組織にはいい面もたくさんあります。

しかし問題は

「ほとんどの人は組織にいる間ずっと、こんなことを考える機会さえ与えられていない」

ということです。

いつも忙しく組織の目的に追われているうちにこのような問題はいつも後回しになります。

所属する個人が結論を出すのを早める危険性がありますから、組織のほうからわざわざこういった話を持ち出すことはまずありません。

とはいっても長期的に考えればほとんどの人がいつかはこういう点に思い至ります。

つまり、自分が今の組織に所属している必要性について考えることになります。

そして何割かの人は実際に所属している組織を離れます。

しかし、このように決断までに費やされる時間があまりにも長いために、組織のすり替えメソッドは崩壊しないのです。

だれかが去る前に新たな人を補充すればよいのですから。

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