一般に、ナポレオンヒルの「思考は現実化する」という本は、一部の人からは

「引き寄せの法則」

の本だと思われている場合がありますが、そうではありません。

引き寄せの法則とは違う

細かい点を抜きにして、引き寄せの法則というのをもっとも単純に言えば、

「潜在意識の力を発揮すれば、それだけで願いが実現する

というものですよね?

しかし、本書はそのような主張はしていません

むしろこの本は、ある意味で当たり前の、きわめて常識的なことを着実に順序だてて説明しているだけのようにさえ感じます。

これだけを言ってもあんまり意味ないですが……「思考は現実化する」という本の趣旨をめちゃめちゃ簡略化して言うと

① まず、ちゃんと考えて
② それを途中で迷ったり疑ったりしないでちゃんと自分で決めて
③ 着実に考えながら、ちゃんと行動していけば
④ ちゃんと成功できるよ

ということです。

つまり、その「ちゃんと」というのはどういうことなのかを詳しく論理立てて解説しようとしているのがこの本なのです。

すると、結果的に

「ね? だから思考は現実化するって言ったでしょ?」

という話になると。

このような内容の本です。

なので、思考は現実化する……というフレーズだけを見ると、単純に「引き寄せのことだな」と思いがちですが、この本には

「ひたすら願っていればそのうち実現するよ……」

というようなことは書いてありません。

本書は「コンピテンシー系」の成功哲学本に属する

私なりの区別から言えば、この本は典型的な「コンピテンシー系自己啓発書」です。

自己啓発書の分類

もちろん、これは著者の記述を全面的に信用した場合の話ですが……基本的に、この本は世の中の(主に20世紀、アメリカの)現実の成功者の考え方や言動、または成功するに至った経緯などを踏まえて、そこに見出される「ある共通性」を抽出したものです

その共通性という中に

「神の啓示とか、宇宙の働き、あるいは超物理的に働く何らかの力……」

といったものは原則、含まれていません。

原則……というのは、時々、それを示唆するような、背景としてその可能性を匂わせるような文章はありますから。

確かに、たとえば

「潜在意識の力」

とか

「思考は実体であり、エネルギーである」

といった表現が出てきます。

おそらく著者のナポレオンヒル博士も、ニューソートや他のスピリチュアリティ系の思想や考え方に傾倒していた可能性は否定できません。

少なくとも知識としては持っていたでしょう。

でも、 ナポレオンヒル自身はどういう考え方をしていたのか本当のところはよく分かりませんが、本書をふつうに読んだ範囲で言えることは

「本書の中では、それは中心的な話題ではない」

ということです。

つまり、それは主張に一定の根拠らしきものを与えるために触れられているだけであって、そのこと自体を主張することが本書の趣旨ではないということです。

私にとっては、本書の中ででてくる潜在意識とか思考のパワーとかいう考え方は、

「何かそんな力でも働いているかのように、結果的にそうなる」

という以上の意味を持ちません。

ふつうに読むとそういうふうに読めます。私には。

少なくとも、たとえば潜在意識の力だけで宇宙に働きかければ、後は信じて待ってれば願望は実現する……というような話はまったく出てきません。

いずれにしろ、本書を読む際には、私たちの立場で言えばそれはあまり重要なところではありません。

もちろん、これは私の読み方を前提にした話で、人によって関心の持ち方からして違うかもしれませんし、内容をどのように受け止めるかも差があるでしょう。

ただ、いずれにせよ本書が主に訴えているのは、あくまで

「成功者に共通する行動や考え方のひな型」

です。そのように考えて、そのように行動すると、たいてい成功するという

「共通性」

つまり

「法則」

そのものにフォーカスしているのであって、その法則を法則たらしめているものは何なのか……を解説する本ではありません。

成功という「結果」にフォーカスする

分かりやすく言えば、本書は種類としては

「あなたも泳げるようになる本」
「最短で英語が身に付く勉強法」

とか、そういう種類の本に近いです。

とにかくその通りに実践すればできるようになる、ということに重点があって、そういう読み方をされることを想定して書かれたものです。

「なぜ手足を動かすと水中で推進力が生まれるのか?」
「その勉強法だと、脳はどんな特異な働きをするのか?」

などを解説しようとするものではないわけです。

ただ、時々

「まあ、何でかと言われれば……それは潜在意識とかさあ」

という話になるかもしれませんが、おそらく、

「そんなことより、成功したいんでしょ?」

というのが本書の主張であって、おそらく素直にそのまま読むのが著者の意図に最も近いものと私は結論しています。

そして、この本の中では、

「成功するために何をしたらよいか?」

という問いに対して、

① 成功の内容を明確にし 
② そのために支払うべき代償を自覚的に定め
③ 達成の最終期限を決め
④ それに至る詳細な計画を描き、行動を起こすこと
⑤ 必要な人材をできるだけ多く集めること

などが挙げられます。

そして、それら一つひとつのプロセスにおいて、常に

「思考を用いること」

が「鍵」だと言っている……私にはそういうふうに読めました。

つまり、ナポレオンヒルが言いたかったことは、要するに

「Think and Grow Rich」

なのであって、これは典型的な「引き寄せの法則」とは異なる考え方です。

「思考は現実化する」

とは、ある意味紛らわしい邦訳とも言えますが、それは

「なぜ思考は現実化するのか? それは何の力によってそうなるのか?」

ということを追求する本ではないということです。