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ここで言うマニュアルとは、仕事の現場で使ういわゆる「作業手引書」のことです。
大手ファーストフード店やコンビニエンスストアなどで、アルバイトさんなどが作業を覚えるときに使う業務マニュアルのようなものが典型的ですが、あるいは、業種によって、また一般企業でも比較的大人数で行うオペレーションなどについてはマニュアルが存在している場合も多いでしょう。
こういったマニュアル類の直接的なメリットは、仮にその仕事をするのがまったく初めての未経験者でも、それを見てその通りに行えば、一定のレベルで業務の遂行が可能であるということですね。
これは、あらためて考えてみるととてもすごいことだと思いませんか?
だって、まったくの初心者でも職場に入って初日からいきなり必要な作業ができるんですよ?
マニュアル人間
しかし、一方ではマニュアルに頼らなければ仕事ができない人……これは多くの場合イメージ的にということですが、こういう人は「ダメな人」という評価になりやすいです。
一般に、
「応用がきかない人」
「指示されたことしかできない人」
「イレギュラーな事態が起こると自分で判断できない人」
……という意味で、
「マニュアル人間」
という言葉もあります。
そういったイメージがあるからかもしれませんが、そもそもマニュアルというものを否定的に考えている人や、マニュアル的なものに従って仕事を進めること自体を極端に嫌がる人もたくさんいます。
マニュアルの意義
もちろん、マニュアルがあれば必要に応じてそれを参照することで初歩的な作業の手順を
① 自力で学習したり、実行したりすることができる
ということが直接的な意義になります。
ただし、考えてみるとマニュアルの存在意義はもっと広く考えることもできます。
まず挙げたいのは
② 網羅性
です。
完備された正式なマニュアルというのは、たいてい、その職場において通常起こり得るすべての業務、あるいは一連のフローについて網羅的に説明が施されています。
ですから、単に今自分が確認したい部分だけを選んで使うこともできますが、ふだん担当していない業務や、将来的に自分が習得しなければならない業務の内容を先取りして知ることもできます。
また、その職場で行われている仕事の「全体像」を知ることもできますよね?
③ コンセプトや社是、心構えなど
たいてい、仕事の時に見るマニュアル類というのは、単純に「作業レベルの手順とか内容」だけが記載されているわけではなくて、その冒頭や、それぞれの作業の項目に付随した形で、至ることろに「業務の目的や意味」「あるべき姿」「その理由」「姿勢や心構えの面での注意点」などが同時に提示されています。
その組織が所属する人たちに求めていることや、自分の認識がそれに合致しているか……といったことを確認することができます。
④ 体系化されている
完成度にもよりますが、マニュアルとして整備されている内容は、単に「あいうえお順」とか「難易度順」とか、あるいは適当にランダムに記述されているわけではなくて、それなりの意図をもって秩序だって作られています。
ですから、意識して読み取れば、たとえばそのマニュアルが全体としてどういう価値観で書かれているか、つまり、どんな面を重要視しているかとか、全体を流れているテーマは何かとか……それが表れている場合があります。
そもそもそういう作りになっているマニュアルもありますし、そうでなくても、たいてい深読みすれば見えてきます。
あるいは、その組織はまだそこまで体系化された枠組みを持っていないのだな……とか、現場の人にはそっこまでは求めていないのだな……というふうに裏読みすることも可能です。
マニュアル作成のコツ
ちなみに言うと、上で言ったことはそのまま、マニュアルを作る際のポイントとも言えます。
言葉や表現の明快さ、分かりやすさとか、利用しやすい構成、興味を引きやすく、ストレスを感じさせないための工夫……といった面も大事ですが、そもそも業務マニュアルによって何を知ってほしいのか、何を伝えたいのか、といった面を考えてみることができます。
マニュアルといかに向き合うか
マニュアルというものは一般的には、
「標準化しやすい事柄」
「典型的な場合」
「基本的、原則的な方法」
に絞って作られていることが多いです。
「発生する率が少ないこと」
「例外的なこと」
「標準化しにくいこと」
「想定するレベルとあまりにもかけ離れた高度な方法」
などは除外されているか、記述があっても抽象的です。
ですから、マニュアルに頼っているだけでは一定のレベルから突出した向上は期待できない、マニュアル人間になってはいけない……という意見が出てくるわけです。
しかし、私はもっと別の見方をするべきだと考えています。
まず、もし職場に業務マニュアルの類が存在する場合、私なら真っ先にそれを学習すると思います。
もちろん、実際にはマニュアルのみで仕事を遂行することは難しいので、同時に周囲の人に助けを求めたり、指示を受けたり指導してもらったりすることはあるでしょう。
しかし、それはそれとしてまずマニュアルをできるだけ早く確認しようとするでしょう。
それは、すでにマニュアル化されているレベルのことで試行錯誤したり、自分でいろいろ思い巡らせたりする「時間と労力」をできる限り削減するためです。
すなわち、もしマニュアルというものが
「想定する平均的な業務レベル」
に合わせて作られているなら、そのレベルに至る最速、最短の道は、そのマニュアルに従うことだからです。
私は思いますけど、少なくともこれを疎かにしてしまうと
「マニュアル人間」
どころか
「マニュアル未満の人間」
に留まってしまうことになります。はっきり言うと、それよりはマニュアル人間のほうがまだマシです。
次に、マニュアルというのは初歩的な段階では非常に有効ですが、ずっとそれに頼っていてはやがて限界が来るというのは確かに事実です。
そして、マニュアルというのは常に古くなるのが宿命です。もっと極端に言えば、マニュアルというのは完成した時点で、情報としてはすでに古いのです。だから、マニュアルレベルの仕事をしているだけでは早晩限界が来るのはむしろ当たり前です。
(ただし、だからと言ってそれは、最初の段階ではマニュアルに従うことが最速、最短であることとは矛盾しません)
そこで、多くの人はどこかの時点で早々にそのマニュアルを手放してしまうのです。
でも、実はそれだと、せっかく多大なコストをかけて作成されたであろうそのマニュアルの価値がほとんど活かされていないも同然です。
……で、今度は何をやるかというと。
自分が今やっている業務の詳細や、手順方法(あるいは、自分の実感や経験則からこのやり方がベストだ、とか思っている点)と、もともとマニュアルに記載されている手順方法と、いったいどこが異なっているか、そしてそれはなぜか……を照合し、確認する機会をできるだけ作ります。
これは、単純に自分のやり方が合っているか間違っているかを確かめるということではありません。
そうじゃなくて、実際のところマニュアルに定められた手順や方法と、自分が今やっている手順や方法と、そのどちらがよりレベルが高いか、あるいは、どちらにどんな利点があり、どんな短所があるのか……言い方を変えると
「自分がそのマニュアルをどれだけ超えることができているか」
を確認する……確認するというより、それを競う材料にするわけです。
次に、まだやることがあります。
ある程度自分の業務を把握し、それなりに遂行できているという自負、自信が付いてきたら、今度は個々の作業レベルの差を意識してみる段階から、そのマニュアル全体を俯瞰した場合に、
「その仕事のコンセプトや社是、心構えなど」
がどんな点なのか……をあらためて考えます。
何が重要だと思われているか。社員や従業員に主に求めている資質や価値観は何か。
そして、翻って自分自身は担当する業務のコンセプトや重点をどこに置いていたか。
……そこに整合性があるかどうかを意識して確かめるのです。
ある程度仕事に慣れてくると、現場で直属の上司や同僚、仲間たちが日常的に重視している面と、たとえばマニュアルに書かれている理念、すなわち会社がそもそも重視しようとしているコンセプトや直近のテーマ……両者の間に明らかに乖離がある、というような問題点にも気が付けるようになっています。
典型的なのは、たとえば職場には一応業務手順書やマニュアルや、業務フローの説明書などが存在しているのに、現場で働いている人がそれらをまったく無視して別のやり方をしている……というような状況です。
それ自体大きな問題ではありますが、たとえばこの時、あなた個人としては
① 今実際に現場で行われていること
と、
② もともと書かれていること
のどちらにどんな理由付けや主義主張があるのかを冷静に見極める必要があります。
……ただ、この時に、あなたの視点が
「単に手順や方法論」
というレベルだけに留まっていると、たいていの場合現場優先のほうが「正しい」「妥当」だと感じる場合のほうが多いです。
しかし、その基になっている
「コンセプトやメッセージ、そもそものあり方」
という次元で見ることができるならば、その場合にはむしろ、現場優先で行われていることのほうに根本的な問題を発見できる可能性は高いです。
このように、実はマニュアルというのは使い倒せばかなり意義の大きなものになり得るのです。