お金というのは、そもそも
「貯金するために」
存在しているのではありません。
……当たり前ですね?
では、なぜ貯金するのですか?
貯金する目的は何ですか?
……はい、正解です。もちろん
「使うため」
です。でもこれは半分正解です。
お金を貯める目的を「金額」にしてはいけない理由
よく貯金が苦手な人が急に思い立って
「よ~し、100万円貯めるぞー!」
というような目標を立てて早々に挫折することがありますが、これは何が良くないかというと……金額そのものを目標にしてしまったからです。
でも、一方ではこんな人もいるんじゃないの?
ちゃんと目標を設定して月々計画的に貯蓄して、その通り貯めることができた人。
……と思うかもしれませんが、私は、実はその場合でもやはり金額を目的化することはあまり良い考えとは言えないと感じます。
なぜかというと……むしろその考えに基いてお金を貯めることが習慣化すると、いつの間にか
「貯めること自体が目的」
であるかのように錯覚してしまいやすいからです。
金額を決めて貯金をする……これは、言い換えれば
「目的なき貯金」
です。
ある場合には貯金が趣味のようになってしまっている人もいます。
「おお、こんなに貯まったぞ。よし、もっともっと……次は〇〇円を目標に頑張ろう」
などと、預金通帳を見てほくそ笑んでいるかもしれません。
それが趣味なら別に構わないと言ってもいいですけど……いや、やっぱり良くないですよそれは。あまりおすすめできる趣味とは言えないです。
貯金にははっきりした目的がないといけない、と私は考えています。
人は何を目的にお金を貯めるのか
また、多くの人は貯金の目的を
「不意のリスクに備えるため」
と考えています。
たとえば自分や家族が急に大きな病気や事故に会うかもしれない。
たとえば失業するかもしれないし会社が倒産するかもしれない。
……というように。
万が一の時に必要なお金が無かったら困るから
「備えあれば憂いなし」
というわけですね。
さきほど、貯金をする理由の正解の半分は「使うため」だと書きましたが、もう半分の正解は
「万一に備えるため?」
……残念でした。そうではありません。
昔は違ったかもしれませんが、現代に限れば、万が一に備えるという理由であれば貯金することよりも
「保険」
をかけたほうがよほど確実です。
私は別に保険に加入することを強く推奨する立場でもありませんが、仮に純粋に「万が一の備え」という目的が明確である場合、やはりどう考えても「貯金」より「保険」のほうが圧倒的に有利ですし、安全圏に入るまでのスピードも格段に速いと言わざるを得ません。
もちろん、保険にもさまざまな分野と種類があって、それなりの知識と判断が必要になります。でもそれはコンサルタントの人に納得できるまでよく聞けば済むことです。呼べば喜んで説明に来てくれるでしょう。
「万が一の備え」を理由に貯金しているという人の、本当の心理を想像してみると、おそらくその人は実は、そうは言いながら場合によっては別の使い道も同時に想定しているのです。
それは、いわば目的を保留しているというか、曖昧なままにしておいたほうが良いというように感じているのです。
つまり、結局は貯金する目的をそれほど明確に決定していないので、保険を選ばずに「お金」そのものを手元に保存しようという心理が働くわけです。
貯金があれば、
「欲しいものができたときに買えるし」
「将来必要な出費にも対応できるし」
「気持ちに余裕もできるし」
「……それに、万が一の時の備えにもなるし!」
という感じです。それで貯金を選ぶわけです。
一般論としてのライフプラン、マネープラン
お金を貯める秘訣は「目的」をはっきりすることです。
それは、たとえば小さな子供さんが好きなおもちゃやゲームを買うために、自分のお小遣いを一生けんめい貯めようとするのと基本的には同じことで、それこそ
「意味ある貯金」
なのだと言えます。
そこで、たいていの人はある程度収入の目途が付くといわゆる「ライフプラン」を想像し始めます。あるいはそれに伴う「マネープラン」というものですね?
そこで、自分で調べるなり銀行などの相談員の方に聞いたりして、将来設計を具体的にイメージしておこうとするわけです。
たいてい、そういう話になると
「人生の3大出費」
とか言って、説明というか説得されることになるわけですが。
ほとんどの人は、そんな説明を聞いても、現実にピンときません。どうあれ生きていくには
「とんでもない額の準備が必要だ」
ということだけは理解できるのですが、そこで実際にやることは勧誘されるままに定期預金か投資信託の契約をすることくらいです。
確かに、結婚したら……住宅費が必要だ。
子供が生まれたら……教育費。進学費用。
長生きする予定だから……老後の生活費を十分に。
あ、言っておきますが、ちょっと皮肉っぽい書き方をしてしまいましたが私はこれを否定したいわけではありません。このような考え方は基本的に、非常に良い考え方です。
なぜなら、これはどう見ても
「使うための貯金」
だからです。この原則は間違っていません。
ただし、ちょっとケチを付けるようで恐縮ですが、どうせなら
「とんでもない額の準備が必要なんだなあ」
「ああ……やっぱり、何かとお金がかかるもんですねえ」
とか、そんな漠然とした感覚ではなくて、たとえばマイホームを買うというのが夢なのであれば、もっと具体的に
「4000万円の家を買うから、いつまでに頭金〇〇円貯める!」
というくらいに明確にしたらもっと良いと思いますよ。
つまり、これって考え方としては子供がお小遣い貯めるのとまったく同じですよね?
むしろそうであってこそ「意味ある貯金」なのです。
実は、このように買うものや出費の種類をはっきり具体的にしていくと、そもそも窓口の相談員の方や、FP(ファイナンシャルプランナー)の方が言ってる
「人生の3大出費」
っていうのも……現実のごく一側面に過ぎない気もします。
だって、結婚式挙げなきゃいけないし。その前に彼氏(彼女)作らないと。デートするにもけっこうお金がかかるんですよ。
車欲しいし。海外旅行したいし。現実には、これからあなたと家族が食べる「食費」を累計したらマイホームの頭金より高いですよ?
確かに、想定してまとまった額をあらかじめ確保しておかなければならない……という意味で言えば「3大出費」という考え方も当てはまるんですけど、本当は、すべてにおいて同じことが言えるわけです。
要は、
「いつ何にいくら使うか」
が明確にあって、それを現実に使うために「貯金」という行為が必要なのだという認識です。
3大出費だろうと5大支出だろうと同じことで、目的をはっきり持つことが原則なのです。
多くの人が忘れているお金を貯める「一番大切な理由」
さて、もったいぶってしまいましたが、貯金をする理由、正解の半分は「使うため」だとして、実は、貯金にはそれとは別に大きな目的があります。
もうひとつ、つまり正解の残り半分は、言ってしまえば簡単なことなのですが……。
「増やすため」
です。
貯金が苦手で、どうしてもできない人も。
すでに順調に貯金しているという人も。
……そして、昔の私のように
「貯金なんてやってられっか!」
と信じていた「確信的貯金否定論者」の人も、あらためてこれを思い出す必要があります。
貯金をする理由というのは、
「貯めるため」……×
「万が一に備えるため」……×
「特定の目的に使うため」……◎
「お金をさらに増やすため」……◎
なのです。
お金を貯める目的は「増やす」ため
お金を貯める目的はただ2つ……。
「使うため」
そして、
「増やすため」
この2つです。
私は、結局これ以外にお金を「貯める」目的はないと考えています。
他の目的、たとえば
「不慮のリスクに備えるための貯金」
あるいは、
「貯めることそのものが目的の貯金」
というような考え方は(少なくとも現代社会では)正しい認識とは言えないのです。私はそう考えるべきだと思っています。
あなたの「マネープラン」に欠けている観点
もちろんあなたも、貯金があるないにかかわらず少なくとも「株式投資」や「資産運用」といったものがあるということはご存知でしょう。
また、現在だとFX(Foreign Exchange:外国為替証拠金取引)とか、仮想通過といったものを用いた運用も一般的になりつつあります。もしかしたらあなたも実際に扱ったことがあるかもしれません。
別にこのうちのどれかを特におすすめするわけではありませんが、でも、少なくとも
「お金というのは、増やせるものだ」
「お金は運用して増やさなければならない」
ということ自体は、みんながすでに知っていることでもあります。
ところが、一方で多くの人がライフプランやマネープランといった問題を考える時には、どうしても
「収入-支出」
という概念だけに縛られてしまうのです。つまり、現在の収入を目安に、おおよそ今の収入が今後もずっと続くであろうというきわめてざっくりした前提に立って、支出をコントロールすることを考えます。
支出をコントロールするということは、言い換えれば「お金」のストックをコントロールするというのと同じ意味です。
そしてそれは「お金」を使うタイミングをコントロールすると言っているのとも同じです。
そのために「貯金」とが必要だという認識になってしまいやすいのです。
「増やすための」貯金を始めよう
もちろん、支出をコントロールするという概念は非常に重要で、極めて有効な認識です。
ただ、「使うため」の貯金をしっかり行っている人もですが、貯金がなかなかできないと思っている人、そして、特におすすめしたいのは、今まで貯金などというものに関心すらなく、貯金など無意味だと思い込んでいる人……。
いずれの場合にも
「お金を増やすこと」
を明確な目的とした貯金を始めることをおすすめします。
私が今一番言いたいことは、自分のお金を増やすには
「増やすために貯める」
という認識、そしてその経験が必要だということです。

仮に今より収入が増えても、あるいは期せずして突発的に大きな入金があっても、この感覚がなければ長期的に見てあなたの経済的な状況が大きく好転することは難しいでしょう。
その上で、お金を増やすために最初に必要なことについてお話します。
「増やすため」のお金を明確に分ける
と言っても具体的にどんな投資先が良いとか、今そういう話はしません。
また、最初の段階ではいわゆる積立投資とか「401K」とかはおすすめしません。
そういう「貯金のための貯金」や「お任せ投資」みたいなやり方だと、一番大事な
「お金を増やすことに対する自分の経験値」
が上がらないからです。
しかし、それ以前にとにかく、お金を増やしたいと考えるならまず日々消費に回すお金や特定の目的に使うためにする貯金などと、これから大きく増やそうとするためのお金を
「明確に分けること」
です。
一番分かりやすいのはそれ専用の銀行口座を作って別にしておくことですが、いずれにしろ第一に始めることは「増やすためのお金」を他から完全に隔離することです。
そして、少額なら少額なりに……自分でいつも
「これを少しでも増やすには?」
と考え続けることをお薦めします。
ちょっと変なたとえ話ですが、たとえば江戸時代以前は、日本では「お米」がお金みたいなものでした。
お米は当然いわゆる「農民」が作っていたわけですが、彼らにとって「お米」とは?
……と想像してみましょう。
稲作に従事する農家の人は当然、そのお米を自分たちの主要な食料としていたはずです。しかし同時に、何か欲しいものがあればは「お米」と交換することによって調達するのが当然だったでしょう。第一、税金も「年貢」としてお米で支払うのです。
士農工商の時代。貨幣が一般化する以前の社会では、お米というのは
① 税を支払う方法
② 他の物品と交換する道具
そして、
③ 自分の食べ物
という3つの必要性を同時に満たすものでした。でも、これだけじゃダメですよね?
なぜかというと、これじゃ、翌年、お米を作れないじゃないですか。
……だから、翌年の稲作の苗を作るための米、つまり
④ 種籾(タネモミ)
が絶対必要です。
いわば現代人はお米がお金に変わったことによって
「種籾を取って置く」
という当然の習慣をすっかり見落としてしまっているのです。
ちなみに、農民が次年の稲作のために取って置く種籾というのは、その辺に適当に散らばっている残った米を使うんじゃないですよ?
農民は毎年稲刈りをする少し前に、種籾にする分の米を先に田から選別して大切に保管しておくのです。種籾になる米というのは、慎重に選りすぐった特別な米なのです。
……話を戻しますが、現代、自分が持っている「お金」の中から、種籾のようにそれを選別して保管しておこうと考える人は稀です。
それを使って将来さらに大きな収穫を得ようという意識を持つ人はもっと稀です。
多くの人は自分の収入なり、今あるお金というのをすべて
① 税を支払う方法
② 他の物品と交換する道具
③ 食べ物の調達
までに費やしてしまい
④ 種籾
となるべき「お金」という観念がないのです。
種をまき、刈り取る
士農工商……と言いますが、お金に対する感覚という側面から見ると、実は「士(サムライ)」は今で言えばいわゆる「会社員」「サラリーマン」に近いです。「工商」はある意味自営業者、経営者に近いです。
そして、意外ですが実は「農」というのは最も投資家に近いです。
まずは種籾となるお米のように私たちもそれを特別なものとして「使うためのお金」と区別して大切に保管しなければなりません。
よく「お金に色はない」などと言いますが、これは基本的に「入ってくるお金」について諭した格言であって、私たちは「出ていくお金」についてはむしろ明確に色を分けておかなければならないのです。
① 期限や目標額を決めない
「増やすためのお金」に限っては、いつまでにいくら貯める……というような目標を設定しません。
これは意外かもしれませんが、私はそのほうが長期的に見てうまく行く可能性が高いと考えています。
もちろん、使うための貯金であれば逆に、明確に「いつ」「何に使う=いくら必要」というのが先に分かっているはずで、そのために貯めるのですから、当然に期限や目標額の設定は必要です。
しかし、「増やす」時にはまったく異なる発想をします。
ごく単純化して言えば、お金が増えるというのは、はっきり言って
「今ある金額が」→「未来のどこかの時点で」→「今より増えている」
ことだけが重要です。
たとえば、投資というと私たちはまず「利回り」に注目することが多いかもしれません。
もちろんそれも有効な判断材料であり、利回りが良いに越したことはありませんが、根本的なことを言えば、利回りが何%であろうと、今あるお金の絶対額が増えることこそ投資の第一条件です。
また、基本的にはお金を増やすというのは「今あるお金を働かせること」で実現されます。
ただし、お金を得る方法はそもそもそれだけではありません。一方で私たちは自分の時間や労働力を直接お金と交換することができますし、新たに価値を生み出すこともできます。
「無から有を生む」
と言いますが、これだと利回りの計算が成り立ちません。
つまりお金を増やす手段というのは、単に「安全で割の良い投資先を探す」ことだけではありませんよね?
② 増えたお金を使わない
これも大事です。
ある種の「覚悟」を持つ必要があるのです。
いったん「増やすために存在するお金だ」と決めたからには、それを元手にして仮にお金がどんどん増えても、それはもともとなかったお金だから、そのまま「増やすためのお金」のまま隔離しておき続けるということです。
実は、これが最も難しいです。
しかし、この覚悟がないとおそらくあなたは、自分が期待しているような大きなお金を持つことがずっとできません。
……もちろん、一生使わないで置いておけと言っているわけではありませんよ。
もちろん、人生のどこかの時点でそれを「精算」するタイミングがやってくるはずです。
でも、
「日常的にちょっとお金が必要になったから」
「友人に無心されたから」
「あるのにぜんぜん使わないのももったいないし、少しくらいなら」
……とかいう理由で使ってはいけません。
もし、本当に「お金が増えた」と実感できるくらいの金額に至ったとすれば、おそらくその頃には、あなたはそのお金をこれからどう利用し、何に当てていくのが
「自分の人生にとって最も有効か」
ということを悟っているはずです。
そう思う時期が自然に来ます。
その時こそ
「収穫の時」
なのです。
「あ、今こそこのお金を使うべき時だ!」
と心から思える瞬間まで……それまでは、そのお金は、お金だと思わないでください。
本当に増やすべきなのはあなたの経験値
上記のような点も含めて、実は本当に「増やすべき」なのはあなた自身のお金に対する経験値です。
単に種籾と土地さえあれば武士でも商人でも立派なお米を作れるかというと……もちろんそんなことはありません。
では、武士や商人の人が、農民に稲作のやり方のコツやノウハウを聞けば、自分ひとりでもできる?
……ちょっと難しいような気がしますよね?
というか、途中で投げ出すかも。
お金について言えば、経験値と言ってもそれは、単に投資案件を見分ける目とか、リスクを回避する方法とか、良いビジネスモデルを見つけたりひらめいたりすることとか……そういう知識や技術のことだけではないのです。
たとえば、お金に余裕がないならないなりに、まとまったお金がある時ならそれなりに……その状況ごとに、お金との向き合い方や付き合い方を知ることも経験です。もちろんそれは時には手痛い失敗をしたり、お金以外の面に思わぬ影響が出たり……も含まれます。
私が考えるに、本当はそういった諸々の経験こそ、その人の
「マネーリテラシー」
なのです。
そして、ある意味当然ですが、その人のマネーリテラシーが大きくなればなるほど、その人が持てるお金の額も資産も、それに伴って大きくなっていきます。
もちろん瞬間、瞬間でのブレはありますが、長い視点で見ると、結局その範囲に収まってゆくでしょう。