私は個人的には、夢は無理に持とうとしなくても良いと考えています。
特に、小学生くらいまでの小さな子供さんに夢について考えさせるように仕向ける教育の仕方にはかなり違和感があります。
「夢がない」という悩み?
とは言え、だれしも中学生くらいから大学生くらい間に、一度くらいは将来の夢みたいなことを自分なりに考える時期がありますよね?
強制的に考えさせられる、と言ってもいいですけど。
中には、
「自分にこれといって夢がない」
「夢を探そうとしたけど、ぜんぜん思いつかない」
……といったことを大きな問題だと考えて変に悩んでしまう人もいるようです。
しかし、まずはっきりしておきたいのは
「夢がない」
というのは別におかしな状態ではないということです。
夢がある人もいるし、夢がない人もいて当たり前です。
現代はどちらかというと
「夢を持つのはいいことだ」
「夢に向かって努力している人は素敵だ、素晴らしい、かっこいい……」
というような風潮がありますが、それは、夢を持つことの良い面だけを取り上げて美化しているだけのように感じます。
だれもが必ず「夢」と言えるようなものを持つべきであるとか、夢の一つもないような人生はつまらない人生だとか、そういう考え方は、ある意味で単なる今の風潮というか流行みたいなものに過ぎません。
「とにかく自分も夢を作らなければならない」
というおかしな焦燥感や強迫観念を持つ必要はないのです。
あなたは「夢」がないと困りますか?
もしかしたらあなたは
「周りの人に夢を持つようにといつも言われる」
「夢がないと言ったら否定的なことを言われた」
といった体験があるのかもしれません。夢を持つべきだという他人の態度などにどう反応すればいいのか困ったという場面はあるかもしれません。
しかし、それ以外に何か
「夢と言えるようなものがないことで、何か困りましたか?」
……どうでしょう?
もし特に困っていないのなら、それなのにただ夢を持たなければならないと思い込んでいるだけだとしたら、実際そんなことはありませんので気にしなくていいと思います。
「今が幸せ」な人は夢は要らない
若者の場合と、すでに仕事などで一応のキャリアを築いているような、たとえば30代、40代の人とでは前提が違ってきますが、原則として
「今自分は十分幸せだ」
と感じている人は、夢は必要ありません。
もちろん、今十分幸せで、しかも夢を持っている……としても何の問題もないわけですが、その場合は別に必要があってそれを持ったのではなくて単に夢を持っていたというだけのことです。
夢は必要だから持つのではない
同じように、別に今幸せで、その上で
「夢を持ちたい」
と思うなら、それも別に何も問題ではありません。
つまり問題は「夢があるかないか」じゃなくて、
「夢が欲しいと願っているのにも関わらず、それが持てない」
ということだけです。
それで、あなたがもしそれに当てはまるなら、私は言いたいのですが
「それがあなたの夢なんじゃないでしょうか?」
つまり、今のあなたの夢は
「いつか夢を持ちたい」
という夢なのです。夢がないのではなくて、夢を持つという夢があるのです。
「夢を持ちたい」という夢
なんだか謎かけみたいな話ですが……これはたとえば
「結婚したいけど、理想の相手が見つからない」
とか
「成功したいけど、どんなビジネスをしたいのかが思い付かない」
……と言っているような場合と似ています。
悪いことではないのですが、今あなたが言っている
「夢を持つ」
というのが、いわば言葉だけ、頭の中だけの概念のようなものでしかないから具体的なことをほとんど思い付かないわけです。
だから、今のあなたにとっては具体的に夢を探したくてもそれ自体がまさに「夢」のようにぼんたりしたイメージとしてしか浮かばない。
さっきも言いましたけど……まさにそれが「夢」でしかないからです。
さて、ではどうしたら良いのでしょうか?
一般的に考えれば、夢を持てない心理的な理由というのも挙げられます。
たとえば
① 夢を持つことに罪悪感がある
② 夢という概念に固定観念がある
③ 自分には夢を実現する能力や資格がないとイメージしている
……とか。
ただ、夢を持てないと悩んでいる人というのはおそらくこういったことをただ説明されたところで
「じゃあ結局どうしろって言うんだよ!」
としか感じないでしょう。
そこで私は一つ、ある意味ごく単純とも言える解決方法を挙げたいと思います。
それは
「夢がない人こそ、目標を持ちなさい」
ということです。
……今あなたは
「そもそも夢がないのに、どうして目標なんか決められるんだよ!」
と思ったかもしれません。
しかし、実はそれは勘違いです。
夢があろうがなかろうが、それとは関係なく目標というのはだれでも作ることができます。
なぜ山に登るのか?
ふつう、自然に考えると人は先に何らかの「夢」のようなものがあるからこそ、それに伴ったしっかりした「目標」を持ち得るのだ、という順番でイメージしていることが多いです。
頭の中で概念として考えると当然そのようになるでしょう。
しかし現実の世界ではこれは必ずしも正しくはないのです。
高い山に登ることを想像してみましょう。
ある人は、自分がいつかヒマラヤ山脈の単独登頂に成功して、山頂に立ってその景色を眺める瞬間のことを夢見ています。
その夢を叶えるために、登山家としてのキャリアと経験を積んでいます。
これは
「夢があるから、その過程で目標をクリアしていく」
ということで、ある意味分かりやすいですよね。当然そういう人もいます。
しかし、世の中で登山をする人はもっとたくさんいます。
単に趣味のひとつとして。
健康のためとか。
単に仲間に誘われたから。
他にやることがなくてヒマだし……とか。
で、そういう人でも「目標」を作ることは当然できます。
「前回は7合目まで行けたから、次は山頂まで行ってみよう」
「次はもっと険しい高い山に挑戦しよう」
というようにです。これはいわば、その時点では
「夢なき目標」
と呼べるかもしれません。
ちなみに歴史に残る登山家のマロリー(George Herbert Leigh Mallory)の
「あなたはなぜエベレストに登るのか?」
「そこにエベレストがあるから」
という言葉はあまりにも有名です。
彼は、それが夢だから……とも言っていませんし、それが私の目標なのだとも言いませんでした。
夢がなくても目標は持てる
私がここで言いたいのは
① 人は必ずしも夢がはっきりしていなくても「目標」を持つことは可能だ
ということです。
そして、なぜあなたに目標を持ってみることをお勧めするのかというと
② 目標を達成するという行為を通して「夢」が見つかる可能性が高い
からです。
私の考えとしてはこうです。
もしあなたの今の夢が
「夢を持つこと」
それ自体だとすれば……その夢を叶える最も有効な方法は、夢の有無にかかわらず何か自分にとっての
「目標」
を決め、とにかくそれを達成してみることです。
それを繰り返すと(繰り返すことができると)目の前に「夢」が現われる可能性はきわめて高いのです。
まるで山頂から見渡す景色のように……です。
明晰夢(めいせきむ)
ちなみに……「明晰夢」ってご存知でしょうか?
夢(……ここでは睡眠中に見る本当の「夢」のことですが)を見ている最中に、自分で
「あ、これは夢だ」
と分かることがありますよね?
それを明晰夢と言います。
とにかく、何か適当でもいいから自分で一つ「目標」を決めて、それに取り組んだとします。もちろん、うまく行ったり行かなかったりします。
動機はどうあれ、自分で決めた目標をちゃんと達成できたら、それはそれで嬉しいですよね?
少なくとも気分は良いですよね?
……じゃあ次はこんな目標を立ててみよう。前より少しだけチャレンジングなものにしたりして。
もちろん、またうまく行ったり行かなかったりします。
こんなことを一定期間やってみてください。とりあえずはそんなに真剣に構えて決めなくてもいいから、自分の興味や関心に合わせて目標を立ててみて、達成してみる。
……するとけっこうな確率でこういうことが起こる可能性があります。
「あ、これは夢だ!」
本当はほとんどの人は、夢が「ない」のではなくて、それが自分にとっての夢であるということをまだ自覚していないだけなのです。
それは上で言ったように
① 夢を持つことに罪悪感がある
② 夢という概念に固定観念がある
③ 自分には夢を実現する能力や資格がないとイメージしている
というような心理的なブロックのせいだったり。
あるいは、単にあなたがまだ多くのことについて未知、未経験であったりするためです。
ですから、その場合あなたに今必要なのは「夢」ではなくて、目標を決めてそれを達成するという「経験」なのです。
最初に「夢」がないと成功者になれないのか?
一般的に、成功するためには明確な「目標設定」が必要だと言われます。なので、多くの人が何はともあれ最初にまず「目標設定」しようとします。
ただし、大きな成功をもたらすような「目標設定」をするには、その前にそもそも心の底から湧き起こるような強い願望、つまり
「夢」
がないとダメだ、と言われることもあります。
実際に成功した「成功者」は自分が現在の「成功」を手に入れたもともとの原因として
「最初にその動機が発生した場面」
を思い出すということをします。
「あの時、私がこう決めたから……それを信じて来たからこうなっている」
それを起点として自分の人生を振り返って筋道立てるためです。
成功の原因を逆算して整合性を保つためです。
ですから、成功者が自分の記憶を振り返れば、ほぼ必ず
「私には夢があった」
……ということになります。
しかし実際のところ、自分の成功の要因を本人がすべて把握しているなどということはまずありません。
これは、私たちが未来をあらかじめ予測できないのと同じです。
実際には、過去を振り返ってすべての因果関係を明確にたどることは未来を当てるのと同程度に困難なことなのです。
夢は「いつ」できたのか?
たとえば一流のスポーツ選手がいます。
おそらく、その人はまったく何もないところからいきなりその競技で成功しようという「夢」を
「先に決めてから」
その競技を始めたわけではありません。
少なくとも、夢や目標を想像する以前に、まず事実としてその競技をすでにやっていたはずです。
もしかすると、その競技で活躍している人の姿を見て……というくらいはあったかもしれませんが、それをもって
「夢を決めた」
と言えるかというと、かなり怪しいでしょう。
おそらく、ふつうはすでにその競技を相当に練習して、ある程度の自信と、少なくとも身近な周囲の評価を得るほうが先だったでしょう。
そのような状態になって、また自分自身がそのような状態にあることを自覚して初めて、
「じゃあ次は大会に出よう」
「優勝を目指そう」
「ライバルの〇〇に勝とう」
といった具体的な目標を設定し始めたのではないでしょうか?
そのような、おそらく最初は断続的な個々の目標設定があって、その達成(ある時には未達成)を繰り返している間に、やっとそこに
「夢といえるようなイメージ」
が自覚されてきたのではないでしょうか?
たとえば、オリンピックで金を獲りたいとか、世界的な大会に出たいとか、プロになろうとか。
個別の事実は分かりません。しかし想像してほしいのです。
これは、
「最初に目標設定した」
と言えるでしょうか?
または
「私には、夢があった」
↓
「だから成功した」
と言えるでしょうか?
もちろん、特にスポーツの場合には肉体的なピークが早いですから明確な動機や意思を自覚する年齢も比較的早いかもしれません。
でも問題は年齢とか早さではありません。順番なのです。
多くの場合、事実はこうです。
それを始めた後、夢らしきものが漠然と現れ始め、それなりに実績や評価が付いてきたことを自覚してはじめて目標設定したのです。
実は多くの成功者たちも……夢やビジョンを明確に描いておいてからそれに着手し始めたわけではないのです!
成功ストーリーと現実
でも、後から振り返って話すとすれば本人にとってさえ
「まず動機があって行動があった」
と考えるほうが自然に思えるのです。
そしてその人も、夢や目標を設定した上で、その通りに達成できるほどの経験や能力、自信をすでに得て以降は、確かに明確な目標設定を行ったかもしれません。
そしてその段階に至ればそれは高い確率で実現するでしょう。
そういう段階に至った人が設定する夢や目標というのは、ふつうの人が想像する
「いわゆる夢」
とは違うのです。
それはかなり実現性の高いものであって、達成できるといえる根拠も本人は自覚できているはずだからです。
これを一般的な人々の感覚で言うなら……それはおそらく、私たちが言うところの「夢」というよりはどちらかというと
「仕事の予定」
のようなものに近いです。
おそらく本人は
「できるかな?」
「無理かな?」
とも考えてもいません。
想定通り実行すれば間違いなくできると思ってやっているはずです。
だって彼らの言っている夢とか目標とかいうのは、現状の自分自身のレベルなどとまったくかけ離れた、ぽっかりと宙に浮いているような空想の中にある夢などではなく、むしろ現在の状況が好ましく推移していけば当然の帰結として起こり得る順当な結果のことを言っているにすぎないからです。
もちろん、それだって簡単にできるという意味ではないです。
相当の努力や、それに環境を整えたり助力を得たりすることももちろん必要でしょう。
でも、本人にとってそれは十分現実に得られるという根拠のあるもので、私たちが夢見るときにしばしば行うような
「もっと、こんな素質があったら」
「もっと、こういう環境になれば」
「もっと、周囲の助力があれば」
というような、ないものねだりのような空想的なものではありません。
ただ、成功者たちはそのことに「夢」とか「目標」という言葉を当てているだけなのです。
成功の秘訣
しかし、このような一流の成功者などにたとえば
「成功の秘訣はなんですか?」
と尋ねるとします。
こういう番組や取材の記事などはどこにでもありますよね?
すると、たぶん
「それは、夢を描くことだ」
「目標を具体的にして、それに集中することだ」
……とか、そのように答える可能性は極めて高いです。
本人はそのような記憶と経験をすでに強化している後だから、当然にそうするべきだ、それが成功の秘訣だと信じているからです。
しかし、最初に目標を設定してその通りに達成することができるというならば、その人はふつうの意味で言えば
「すでに成功している人」
なのです。
つまり、端的に言えば、夢が大切だと言っている成功者の言葉の真意は
「自分がすでに成功している範囲のことってけっこう大きなことでも思った通りになるもんだよ」
という意味で言っているわけです。
そりゃそうです。
しかし、私たちにとっては、その言葉は輝かしくはありますがほとんど何の役にも立ちません。
たいてい、多くの人が本当に聞きたいのは、すでに成功している人がさらに成功の積み増しをする方法ではないからです。